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大阪地方裁判所 昭和40年(む)159号 判決

被告人 松村こと水本久雄

決  定

(申立人氏名略)

被告人松村コト水本久雄に対する詐欺被告事件について大阪地方裁判所裁判官が昭和四〇年四月二三日にした保釈許可の裁判に対し右申立人から適法な準抗告の申立があつたので審査の上次のとおり決定する。

主文

原裁判を取消す。

本件保釈の請求を却下する。

理由

一、本件訴訟記録および勾留関係記録により、被告人が本件被告事件について勾留中のところ、昭和四〇年四月二三日大阪地方裁判所裁判官が保釈許可の裁判をしたことが明らかである。

一、ところで検察官の本件申立の理由は別紙準抗告申立書の理由の項記載のとおりであるからここにこれを引用する。

一、そこで右理由の有無について検討する。

まず常習犯である、との点について

刑事訴訟法八九条三号にいう「常習として」というのは、犯罪の性質、態様、環境等から犯行を反覆する習性が認められるならば、前に同種の犯罪を繰返し行つている場合はもちろん、たとえその後相当期間犯行が中絶している場合であつても、常習として犯したものというべきものである。

そこで本件についてみると、検察庁より取寄せた一件記録に徴すれば、本件はいわゆる鹿追い賭博といわれる犯行手段によるものであつて、右は外交、仕事師、大尽と呼ばれる役割を共同犯行者三名が各分担し、犯行にあたつては三者互に意気合致し、一体となつて始めて犯行達成ができる性質のものであつて、一朝にしてなしうる種類のものではない。

しかも本件共犯者の一人塩田義一はこの種犯行のまさに常習者であることが明らかなものであり、かかる者が犯行をともにするにあたつては、その共犯者の人選につき相当注意を払つてするであろうことは容易に推認できるところである。そして被告人はかなり以前のものではあるが、詐欺賭博による前科二犯の前歴を有し、右塩田とも知己の間柄にあることを、前記々録によつてまた認めることができる。

右のような事情と、前記々録によつて認められる、本件において、被告人が被害者に対してとつた諸態様および被告人が長期にわたつて定職もない状態にあるという事情等を総合考察すると、被告人はこの種犯罪の常習性を有し、その結果本件をみるに至つたものというべきである。

従つて、被告人には刑事訴訟法八九条三号に該当する事由があるというべきである。

そして本件の共犯者塩田義一および山本某がいずれも逃亡して未逮捕の状態にあるという事情ならびに前記事情等を合せ考えると、裁量による保釈の許可をすることも相当でない。

そうすると他の点について判断するまでもなく、申立人の主張は理由があり、保釈許可の裁判をした原裁判は相当でないからこれを取消し、また保釈申請は、これを却下することとし、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 本間末吉 和田功 田中宏)

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